東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1411号 判決 1973年6月30日
控訴人(附帯被控訴人)
常石造船株式会社
右代表者
神原秀夫
右訴訟代理人
板木郁郎
外一名
被控訴人(附帯控訴人)
具志堅清
外五名
右被控訴人六名訴訟代理人
内藤功
外二名
被控訴人六名補助参加人
(浦賀重工業株式会社訴訟承継人)
住友重機械工業株式会社
右代表者
岩崎信彦
右訴訟代理人
山田弘之助
外一名
主文
1 控訴人の被控訴人具志堅清及び被控訴人具志堅常子に対する本件控訴はいずれもこれを棄却する。
2 原判決中被控訴人(附帯控訴人)具志堅清勝訴の部分を除く同被控訴人(附帯控訴人)に関するその余の部分を取消す。
3 附帯被控訴人は附帯控訴人に対し金四一三万七五〇八円及びこれに対する昭和四一年四月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
4 附帯控訴人のその余の請求を棄却する。
5 原判決中被控訴人具志堅明、被控訴人具志堅隆、被控訴人具志堅興信及び被控訴人具志堅ツルに関する部分を左のとおり変更する。
6 控訴人は被控訴人具志堅明及び被控訴人具志堅隆に対し各金三〇万円及びこれに対する昭和四一年四月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の、被控訴人具志堅興信及び被控訴人具志堅ツルに対し各金二〇万円及びこれに対する昭和四一年四月二九日から完済に至るまでの年五分の割合による金員の各支払をせよ。
7 被控訴人具志堅明、被控訴人具志堅隆、被控訴人具志堅興信及び被控訴人具志堅ツルのその余の請求はいずれもこれを棄却する。
8 控訴人と被控訴人具志堅常子との間の控訴費用は控訴人の負担とし、控訴人(附帯被控訴人)と被控訴人(附帯控訴人)具志堅清ならびにその余の被控訴人らとの間の訴訟費用は第一、二審ともこれを五分し、その三を控訴人(附帯被控訴人)、その余を被控訴人(附帯控訴人)具志堅清ならびにその余の被控訴人らの各負担とし、参加によつて生じた訴訟費用は第一、二審ともこれを五分し、その三を控訴人(附帯被控訴人)の、その余を補助参加人の各負担とする。
9 この判決の主文第三項ならびに第六項は仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一、(当事者)
被控訴人具志堅清が浦賀重工(浦賀重工業株式会社)の従業員であつたが、同会社は昭和四四年八月二六日補助参加人住友重機械工業株式会社に合併され、同被控訴人が同日以降補助参加人会社の従業員であり、被控訴人具志堅常子、同明、同隆、同興信、同ツルがそれぞれその妻、長男、二男、父、母であること及び被控訴人会社が船舶の建造、修理、解体等を業とする会社であることは当事者間に争がない。
二、(本件事故の発生)
浦賀重工が控訴人会社の発注に基いて本件クレーン(三トン固定式水平引込式クレーン)の本体(鋼造、機械部分)を建造し、その基礎部分は控訴人会社が構築したものであること、昭和四一年四月二八日本件クレーンの試運転が行われたが、その際本件クレーンが倒壊し、被控訴人具志堅清が傷害を受けたことは当事者間に争がない。そして、<証拠>によれば、右試運転の際同被控訴人は浦賀重工の工事係長本田博の指揮の下に本件クレーンの運転室に塔乗して本件クレーンを操作し、最初無荷量のまま操作し、次いで1.5トンの荷重を吊り上げて異状を認めなかつたので、更に三トンの荷重による操作に移り、三トンのバラストを地上より約一〇センチメートル吊り上げて約五分間停止し、本田らが各部を点検し異状がなかつたので、右バラストを地上より約三メートル吊り上げたところ、控訴人会社の構築した基礎部分の上半部に破損を生じ、本件クレーンが横倒しの状態で運転室が下側となつて倒壊し、運転室は押しつぶされ、これに塔乗していた被控訴人具志堅清は頭部打撲傷、前頭骨骨折、右鎖骨、右肩胛骨骨折、右第四第五肋骨骨折、左肘関節脱臼、左上腕骨内上骨折、左大腿骨開放性骨折、右大腿骨頸部骨幹部骨折、右脛骨間隆起骨折、胸部、腹部打撲傷、顔面、右下肢、両上肢挫創等の傷害を受けた事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
三、(本件事故の原因)
<証拠>を総合すると次の事実が認められる。すなわち、浦賀重工の建造した本件クレーンの本体は最大巻上荷重三トン、試験荷重3.75トン、作業半径荷重1.5トンの場合五ないし三〇メートル、荷重三トンの場合五ないし二五メートル、揚程地上二五メートル地下一五メートルの能力を有し、その基礎としてコンクリート基礎を用いるときは、コンクリートに埋め込んだアンカーボルトにナットで固定される構造となつており、基礎に対する荷重として、垂直荷重四〇トン、最大転倒モーメント一〇〇トンメーターの荷重がかかるものとされ、これに対し、控訴人会社の構築した基礎は、海岸の斜面に高さ0.5メートル(陸側)ないし2.5メートル(海側)、縦四メートル横3.8メートルの四角形にコンクリートを打ち、更にその上に高さ1.2メートル、縦三メートル、横2.3メートルの直方体を重ねた形のコンクリート基礎であるが、右基礎には次のような瑕疵が存在した。すなわち、右基礎には全く鉄筋が使用されておらず、右直方体の部分は、その下部から高さ0.6メートルまでの部分(以下下段という。)は昭和四一年四月五日午前に生コンクリートを打ち、その上部の高さ0.6メートルの部分(以下上段という。)は同日午後に生コンクリートを打つたもので、上段と下段とは数時間をおいて二回にコンクリートが打たれたものであり、しかも上段の下部には、アンカーボルトを固定する目的で土の付着した人頭大の割石が多数入れられたため、上段と下段とは剥離しやすい状態にあつた。そのため、先端に三トンの荷重を受けた本件クレーンの本体は基礎の上段の部分のコンクリートや割石をつけたまま下段の部分から剥離して、前記のとおり倒壊したものである。以上の事実を認めることができ右認定を覆すに足りる証拠はない。
四、(控訴人会社の責任)
そこで控訴人会社の責任について検討する。
(一) まず、前記認定のような本件クレーンの基礎部分が民法第七一七条第一項の地土の工作物にあたることは多言を要しないところであり、そして控訴人会社が右基礎部分を構築した土地は控訴人会社が神原土地建物株式会社から賃借している土地であることは控訴人の自認するところであるから、控訴人会社は権原に基き右敷地に右基礎部分を構築したものであつて、右基礎部分は土地に附合することはなく、控訴人会社は右基礎部分を構築したことによりその所有権を取得し、かつ右基礎部分は少くともそれが構築された時期においては控訴人会社の占有にあつたものと認められる。
ところで、<証拠>によれば、本件クレーンの本体は昭和四一年四月一七日から据付工事にかかり同月二七日据付を完了したものであるが、控訴人会社と浦賀重工との間の契約においては、クレーン本体は浦賀重工において試運転を行つた上控訴人会社に引渡す約定であり、そして本件事故は右引渡前の試運転の段階で発生したものであることが認められるのであるが、前記認定のとおり、本件クレーンの本体は基礎に埋め込んだアンカーボルトにナットで固定される構造のものであるから、一旦据付を完了しても取りはずすことができ、そして<証拠>によると、浦賀重工は本件クレーン本体の据付に関する機械工事を稲井興業有限会社に請負わせ、同会社は一一日間延六〇人くらいの従業員を使用して据付をし、その請負代金は約四〇万円であり、更に電気工事は協和工機株式会社が請負いその請負代金は一五万円であつたことが認められるから、その取りはずしも概ね同程度の手数と費用で足りるものと推察され(据付に一五〇万円以上を要し、これを取りはずし他のクレーン本体を据付けるとすれば二〇〇万円ないし二五〇万円を要するとの控訴人主張を認めるに足りる証拠はない。)、そして、<証拠>によれば、本件クレーン本体を控訴人会社が浦賀重工に発注した代金は七四五万円であると認められるから、右据付の費用ならびに取りはずしの費用はいずれも右代金の一割以内と認められ、したがつて、本件クレーンの本体は一旦本件基礎部分に据付けた以上は取りはずしが困難であるということはなく、物理的にも経済的にも十分取りはずしが可能であると認められる。一方本件クレーンの基礎部分も、その構築費用を審かにする資料はないけれども、前記のような大きさに照してかなりの費用を要したものと認められ、そして右基礎部分が本件クレーンの本体を据付ける目的で構築されたものであることは弁論の全趣旨に照らし明らかではあるが、埋め込まれたアンカーボルトの排列に適合するように制作される限りは、他のクレーンを据付けることも可能であることは明らかに認められるところであり、本来前記のような瑕疵さえなければ本件クレーンの本体を取りはずしても全く経済的価値を失うものではなかつたと考えられる。以上のような点から考えると、本件基礎部分はこれに本体を据付けたからといつて直ちに本体と附合しこれと一体となつて権利の客体となるということはなく、それぞれ独立して権利の客体となり得るものであると解するのが相当であり、クレーン本体が控訴人に対する引渡前であつて、いまだ浦賀重工の所有ならびに占有に属したからといつて、本件基礎部分の所有権が本体の据付によつてクレーン本体の所有者である浦賀重工の所有に帰するものと解することはできず、また基礎部分が試運転等のために一旦浦賀重工に引渡されたことを認めるに足りる証拠もないから、本件基礎部分は依然控訴人の占有に属したものといわなければならない。叙上の認定を覆すに足る事実の立証はない。
そうとすれば、本件基礎部分に前記のような瑕疵があつて、その瑕疵が本件事故の原因となつた以上、控訴人会社は民法第七一七条第一項の規定によつて、本件事故によつて損害を蒙つた者に対しその損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。
(二) 更に、<証拠>によれば、浦賀重工においては控訴人会社に対して、本件クレーンの前記のような荷重条件と使用すべきアンカーボルトの寸法、本数、排列等を記載した「三トン固定型ジブクレーンの基礎取合の件」と題する書面を交付したのみで、直接基礎の大きさ、構造については指示せず、控訴人会社において建設課員であつた佐藤武司が、右の書面を見せられることもなく基礎の大きさ、構造を決定してこれを構築したものであることが認められるのであるが、前記のようなクレーン本体の荷重や作業半径三〇メートルにも及ぶ大きさからいつて、基礎に鉄筋を入れなければ基礎が損壊する危険があることはたやすく判断でき、更に基礎のコンクリート打ちを下段と上段の二回にわけて行い、しかも上段の下部に多数の土の附着した人頭大の割石を混入したのでは、上段と下段とが剥離しやすいことも容易に察知し得るところであると考えられるから、右佐藤武司としてはこれらのことを考慮して、基礎に鉄筋を入れ、更に右のような剥離の生じやすいような方法をとることは避けるべき注意義務があつたというべきであり、<証拠>によれば、同人はそれらの点について考慮を廻らすことなく、前記のような状態で本件基礎部分の構築にあたつたことが認められるから、本件事故は控訴人会社の被用者である佐藤武司の過失に基くものであることが明らかであり(なお、本件基礎に埋め込まれたアンカーボルトはこれにクレーンの本体を固定させる目的のものであつて、基礎自体の補強のための役目をもつものではないことが前記の認定事実からいつて明らかであるが、本件基礎の直方体の部分の高さは1.2メートルであるのに対し、浦賀重工の指示したアンカーボルトの長さは1.3メートルであることが<証拠>によつて明らかであるから、もしも控訴人会社が指定どうり長さ1.3メートルのアンカーボルトを使用していれば、右アンカーボルトが鉄筋と同様基礎自体の補強の役目をも果たし、あるいは本件基礎が上段と下段との間で剥離することがなかつたかもしれないと考えられるのであるが、この点についても、<証拠>によれば、控訴人会社では当初本件クレーンを鋼鉄製の桟橋上に設置する予定であつて、その場合にはアンカーボルトを必要としなかつたが、急遽海岸にコンクート基礎を構築して設置することに予定を変更したため、浦賀重工に対しアンカーボルトの手配方を依頼したけれども間にあわず、市販の短いアンカーボルトにアングルを熔接して代用としたが、その長さも浦賀重工の指示に反し、熔接したアングル部分を加えても0.6〜0.7メートルにしか達しなかつたため、右アンカーボルトも基礎の上段と下段とをつなぐ補強としては役立たなかつたことが認められる。)、本件基礎部分の構築が控訴人会社の業務の執行としてなされたものであることもいうまでもないから、控訴人会社は民法第七一五条第一項の規定によつても本件事故について損害を蒙つた者に対しその損害を賠償する責任があるものといわなければならない。
これに対し控訴人は、本件基礎はその大きさ自体が本件クレーンの荷重に耐えるのに不足し、本件基礎に前記のような瑕疵がなかつたとしても基礎全体ごと倒壊すべかりしものであり、そのことは浦賀重工の主住技術者本田博によつて一見明瞭に看取できたはずであるから、それにもかかわらず試運転を行つた同人の過失が本件事故の原因であるとの趣旨の主張をするが、本件クレーンが現実に倒壊した原因は、本件基礎に鉄筋が使用されておらずしかも割石が混入されていた等の瑕疵によるものであることは既に説示したとおりであるばかりでなく、仮に本件基礎の大きさ自体が本件クレーンの荷重に耐えられないものであつたとしたところで、本件クレーンの荷重条件は浦賀重工によつて示されているのであり、控訴人会社においてはこれに従つた大きさの基礎を構築すべきであるから、浦賀重工の指示した荷重条件自体が誤つていたことが立証されない限りは控訴人会社の過失は免れないのであり、そして浦賀重工の荷重条件の指示が誤つていたことはなんら控訴人の主張立証しないことろであるから、控訴人の主張は到底採用できない。
なお右の点について、仮に基礎の大きさ自体が不足していたためいずれにしてもクレーンの倒壊を免れなかつたものであり、そして浦賀重工の主任技術者本田博にこの点を看過して試運転を行つた過失が存するとしても、右の過失は本田博及びその使用者である浦賀重工が控訴人会社との連帯による賠償責任(共同不法行為に関する。)を負う根拠となるに止まり、たとえ被控訴人具志堅清が浦賀重工の従業員であつて、右本田博の指示に従つて本件クレーンの操作をしていた者であるからといつても、控訴人会社が全面的な損害賠償責任を負担することにはかわりがないものと解するのが相当である。
叙上の認定を左右するに足る事実の立証はない。
五、(被控訴人具志堅清の損害)
(一) (浦賀重工又は補助参加人から得べかりし賃金)
1、<証拠>を総合すると次の事実が認められる。すなわち、被控訴人具志堅清は横浜の電気関係の工業学校を卒業し、昭和二三年三月一日に浦賀重工に入社し、本件事故当時起重機橋梁事業部浦賀起重機橋梁工場工事部工事第一課係員として稼働していたものであり、極めて健康であつたが、昭和四一年四月二八日の本件事故により前記のような傷害を受け、直ちに広島県沼隈郡沼隈町常石の塙本病院に入院したが、前記のとおり殆んと全身にわたり骨折等の傷害を受けたほか頭部をも強打したため、当初意識不明の状態にあり、その後も全身の痛みを押えるため麻酔を打ちつづけ、約一ケ月の間は意識がやや回復しても言語を発することができなかつたり記憶喪失の状態が続き、また骨折の手術のため麻酔をかけたところ身体の衰弱のため心臓の機能が停止しかかり生死の間をさまようようなこともあつた。そして、右塙本病院は設備が十分でなかつた等の関係から、昭和四一年七月七日救急車で岡山市の岡山労災病院に移り、同病院で同年九月、一一月、翌昭和四二年一月、六月の四回にわたり左右両大腿骨の骨折の手術、股関節の脱臼ならびに複雑骨折の回復手術等の手術を行い、漸く昭和四二年一〇月二三日住所に近い川崎市の関東労災病院に救急車と寝台車で転院することができた。そして常石の塙本病院から岡山労災病院に移る前後の頃から右大腿骨の骨髄炎を併発し、また床ずれができて化膿し、右の骨髄炎や床ずれはなかなか治癒せず、骨髄炎は関東労災病院に移つた後までつづき、また昭和四二年一二月関東労災病院で、岡山労災病院で入れた右大腿骨の金属を抜く手術をしたところ、骨が脆くなつていたためにその日のうちに再び骨折を起こしたこともあつた。その後骨折は一応治癒したものの、長期間の臥床のため股関節、膝関節、足関節の拘縮が著しく、両下肢の筋の萎縮、筋力の低下を来たし、関東労災病院に転院した当時は歩行は勿論、起座、起立も不能の状態であつたが、昭和四五年九月現在で、各関節の屈伸可能の程度は、股関節は屈曲右脚一四〇度、左脚一六五度(したがつて両脚とも上半身との角度を直角になるまでに曲げるにも程遠い。)、伸展左右とも一八〇度、外転は右脚四〇度、左脚三〇度、膝関節は屈曲右膝一六〇度、左膝一五〇第、伸展右膝一六〇度、左膝一六五度(したがつて、右膝は伸展の状態より二〇度屈曲したままの状態で固定し、左膝も同程度に屈曲しわずかに屈伸し得るにすぎない。)、足関節は足背屈右足一〇〇度(したがつて右足は蹠を全部床につけて起立することができない。)、左足八〇度、足底屈右足一三五度、左足一三〇度であつて、他人の介助によつて背凭によりかかつて起座し、介助によつて起立し独りで掴り立ちし、歩行器によつて五〇メートル歩行することが可能となつたが、更に積極的な治療効果は期待し難いため、その後退院して自宅療養を続けている。以上の事実が認められ右認定を動かすに足りる証拠はない。
以上の事実からすると、被控訴人具志堅清の労働能力は全く失われ、終生労働に従事して収入を得ることは不可能であることが明らかである。
2、ところで、<証拠>を総合すれば、被控訴人具志堅清は、昭和四一年四月三〇日以降は労働者災害補償保険法第一四条に基き平均賃金の六〇パーセントの休業補償の給付を受け、昭和四四年四月三〇日以降は同法第一八条に基く長期傷病補償給付に切りかえられてその給付を受けており、そして浦賀重工ないし補助参加人会社は同被控訴人が長期傷病補償給付を受けるようになつた昭和四四年四月三〇日以降は労働者災害補償保険法第一九条の三、労働基準法第一九条第一項但書の規定により同被控訴人を解雇することができるのであるが、同被控訴人の所属する労働組合の要請等もあつて、同被控訴人を解雇せず、同被控訴人に夏季一時金及び年末一時金を支給してきたが、同被控訴人は昭和四七年末をもつて退職する予定であることが認められる。
3、そして、<証拠>によれば、被控訴人具志堅清の昭和四一年から昭和四七年までの基準内賃金は別表三の該当欄記載のとおりであり(別表一及び別表二の該当欄の記載も同様である。)、これに対し同被控訴人が昭和四一年一月一日から同年四月二八日までに支給を受けた賃金及びその後昭和四七年末までに支給を受け又は支給を受くべき休業補償及び長期傷病補償は別表三の支給された賃金、保険金欄記載のとおりである(<証拠>記載の三九万八九九六円から<証拠>記載の夏季一時金八万一〇二一円及び年末一時金八万八三八三円を差引いた二二万九五九二円が昭和四一年一月一日から同年四月二八日までに支給を受けた賃金であると解せられ、その後同年一二月三一日までに支払われた休業補償は<証拠>に記載された八七二円四〇銭に同年四月三〇日から一二月三一日までの日数二四六日を乗じた二一万四六一〇円であると解され、また、昭和四二年中に支払われた休業補償は右八七二円四〇銭に三六五日を乗じた三一万八四二六円であり、昭和四三年中に支払われた休業補償は右八七二円四〇銭に同年一月一日から同年一〇月三一日までの日数三〇五日を乗じた二六万六〇八二円と<証拠>に記載された一〇六四円四〇銭に同年一一月一日から同年一二月三一日までの日数六一日を乗じた六万四九二八円とを合計した三三万一〇一〇円であると解され、別表一に記載された金額はこれらの点に誤りがある。)ことが認められるから、被控訴人具志堅清が本件事故により喪失した昭和四一年から昭和四七年までの得べかりし賃金は別表三の該当欄記載のとおりであるということができる。
4、次に、<証拠>によると昭和四〇年から昭和四七年までの同被控訴人の基準内賃金月額は別表二の該当欄記載のとおりである(昭和四一年から昭和四七年までは別表一及び別表三の該当欄の記載もこれと同様である。)から、昭和四一年から昭和四七年までの昇給率は、昭和四一年9.38パーセント、昭和四二年12.27パーセント、昭和四三年13.55パーーセント、昭和四四年16.98パーセント、昭和四五年20.94パーセント、昭和四六年18.43パーセント、昭和四七年17.93パーセントであり、そして日本の企業の賃金体系はいわゆる年功序列型の賃金体系であり、従来民間企業にあつては殆んど毎年かなりのべースアップが行われている点を考えると、被控訴人具志堅清は今後も補助参加人会社に勤務するとすれば、定期昇給及びベースアップを含めて、少くとも毎年一〇パーセントの昇給を続けることは確実であると見られる(この点に関し控訴人は、将来の昇給を加味することは、経済成長政策の転換を迫られ不況時代を迎える可能性のある現在においては長期間にわたる将来の収入を予測することができないから、不当であると主張するけれども、我が国の経済が依然成長を続けており、一般的な賃金上昇傾向に停止の気配が認められない現在、前示のような年功序列型の賃金体系に基く定期昇給をも併せ考えれば、被控訴人具志堅清の場合右の程度の昇給を見込むことは、これを不当とすべき理由がなく、控訴人の主張は採用できない。)から、同被控訴人の昭和四八年以降満五五才の定年に達するまでの昭和五九年一杯まで<証拠>によれば、補助参加人会社の定年は満五五才であり、同被控訴人は本件事故当時三六歳であつたが、昭和五九年一杯までは右の定年に達しないものと推察される。)の予想される基準内賃金の月額ならびに年額は少くとも別表三の該当欄記載のとおりであると認められる(別表一記載の金額も年額について一部誤りがあるほかこれと同様である。)。
5、そして、<証拠>によると、同被控訴人は昭和四〇年から昭和四六年まで別表二記載の金額の夏季一時金ならびに年末一時金の支給を受けたことが認められ、その基準内賃金に対する支給率は別表二の支給率(B)欄記載のとおりであつて(甲第三三号証記載の支給率は別表二の支給率(A)欄記載のとおりであるが、これには一部計算の誤りがある。)、その平均は夏季一時金2.262、年末一時金2.496であり、最近の三年間はすべて右平均を上廻つているから、同被控訴人は今後も補助参加人会社に勤務し稼働することができたとすれば、昭和四八月以降も少くとも右平均以上の支給率の夏季一時金ならびに年末一時金の支払を受けられるであろうと認めることができ、その金額は別表三の該当欄記載のとおりである(別表一の該当欄記載の金額は前記のとおり誤りのある別表二の支給率(A)によるものである。)。
6、したがつて、同被控訴人が本件事故によつて喪失した浦賀重工及び補助参加人会社から支給を受べかりし賃金は別紙三の該当欄記載の金額(昭和四一年から昭和四七年までは基準内賃金の年額から、既に支給を受けた賃金・保険金欄記載の金額を差引いた金額、昭和四八年から昭和五九年までは基準内賃金の年額に夏季一時金及び年末一時金を加えた金額)となる(なお別表一の該当欄記載の金額中昭和四八年以降の分は基準内賃金の月額をも加えた誤り――すなわち一三ケ月分の基準内賃金の支給を受けることとなる誤り――と他に若干の計算の誤りが存する。)。
なおこの場合、同被控訴人が今後支給を受くべき長期傷病補償を差引くべきかどうかについては、次の理由によつてこれを差引くべきではないと解するのが相当である。すなわち、労働者災害補償保険法第二〇条は「政府は、補償の原因である事故が、第三者の行為に因つて生じた場合に保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、補償を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。前項の場合において、補償を受けるべき者が、当該第三者より同一の事由につき損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で災害補償の義務を免れる。」と規定しているのであるから、右規定は補償を受けるべき者(以下被害者という。)は補償の原因である事故を起こした第三者(以下単に第三者という。)に対して、被害者が国より保険給付を受くべき価額を含む金額について損害賠償請求権を有することを前提とし、被害者が第三者より損害賠償を受けたときは国はその限度で保険給付を免れ、もし被害者が第三者より損害賠償を受けず、国が保険給付を行つたときは国はその価額の限度で被害者の第三者に対する損害賠償請求権を取得することを規定したものと解せられるから、被害者より第三者に対する損害賠償の請求については、国より補償を受けるべき価額を含む金額について請求がある限りこれを認容すべきものであり、右第三者がその損害賠償を履行したときは国は保険給付を免れるが、その履行がなされない部分については、国が保険給付をしたときはその価格の限度で損害賠償請求権は国に移転し、国は被害者の承継人として被害者の得た判決につき承継執行文の付与を受けることができる場合もあるものと解するのが相当である。
7、右のとおり被控訴人が本件事故により喪失した浦賀重工ないし補助参加人会社より得べかりし賃金について、ホフマン式計算により民法所定の年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の価額に引き直すと、その金額は別表三の該当欄記載のとおりであつて、その合計は二五四〇万〇六三六円となる。
(二)(退職後得べかりし賃金)
厚生省昭和四四年発表の第一二回生命表によれば、三六歳の男子の平均余命は35.37年であるから、被控訴人具志堅清は七一歳に達するまで生存するものと予想することができ、そのことならびに同被控訴人が健康であつたことからすれば、同被控訴人は本件事故に遭わなければ、満五五歳の定年で補助参加人会社を退職した後も昭和六〇年から昭和六七年まで少くとも八年間稼働することができると予想することができる。そして総理府統計局発表の第二一回日本統計年鑑昭和四五年版<証拠>によれば、昭和四四年の産業別常用労働者(男女共)の給与月額の総平均は六万四三〇〇円である(因みに男子のみのそれは七万五九〇〇円である)から、同被控訴人は昭和六〇年から昭和六七年まで毎年七七万一六〇〇円の収入を得べかりしところ本件事故により右収入を喪失したものと認めるのが相当であり、これをホフマン式計算方法により年五分の中間利息を控除して昭和四一年の本件事故当時の価額に引き直すときは、右七七万一六〇〇円に二七年の複式ホフマン係数16.804から一九年の同様の係数13.116を差引いた3.688を乗じた二八四万五六六〇円となるから、これをもつて同被控訴人の前記八年間の得べかりし収入の昭和四一年当時の価額であると認めるのが相当である(同被控訴人は八年の複式ホフマン係数6.588を乗ずべきものとするが、それでは八年間の収入の昭和六〇年はじめにおける価額を算出することにしかならない)。
(三)(得べかりし退職金)
1、被控訴人具志堅清が本件事故に遭遇しなければ定年の満五五歳に達する昭和五九年一杯まで補助参加人会社に勤務し稼働することができたであろうと予測し得ることは前叙のとおりであり、同被控訴人が昭和二三年三月一日に浦賀重工に入社したことも前記認定のとおりであるから、同被控訴人の定年退職時における勤続年数は三六年一〇ケ月であると認めることができる。そして、<証拠>記載の退職手当金支給規則の第一条等の規定及び別表1によると、満五五歳で退職した場合又は勤続年数二五年以上で五〇歳以上で退職した場合の勤続年数三六年一〇ケ月の者の退職金の支給率は81.25ケ月分であり、また、右の退職手当金支給規則第三条には「前二条の基礎額は退職時の本給とする。但し昭和四四年四月一日以降定期昇給以外の事由による本給改訂があつたときは本給改訂による増額分を控除してこの規則の本給とする」と定められている。ところで、被控訴人具志堅清の昭和四〇年から昭和四七年までの本給は、<証拠>によると別表二の該当欄記載のとおりであることが認められ、そして昭和四八年以降の本給についても(一)の4に説示したところとほぼ同一の理由から年一〇パーセント程度の昇給は十分予測することができるけれども、今後予想される昇給については勿論現在までの昇給についても、定期昇給とそれ以外の事由による昇給とを区別するに足りる証拠はない<証拠>記載の昭和三七年から昭和四四年までの定期昇給の金額は、<証拠>の記載自体から判断し、また<証拠>と照らし合わせて考えてみると、浦賀重工の従業員全員に関する基準内賃金の総額についての昇給に関する定期昇給の額を示したものであつて、被控訴人具志堅清の場合を示したものではなく、また本給のみについての定期昇給金額を示したものでもないと解されるから、これによつても同被控訴人の本給の昇給のうち定期昇給の金額を推定することは不可能である。)。したがつて、同被控訴人の退職金を算定するには昭和四三年末の本給を基準として計算するほかなく、それによると、昭和四三年末の本給は月額三万二七五五円であるから、同被控訴人が昭和五九年末までに勤務した場合に得られる退職金の額はこれに81.25の支給率を乗じた二六六万一三四三円であるといわなければならない。(なおホフマン式計算によりその昭和四一年当時の価額を求めれば一三六万二六〇七円となる。)
2、次に同被控訴人が昭和四七年末までで退職する予定であることは先に認定したとおりであり、その勤続年数は二四年一〇ケ月となるから、同被控訴人がその際現実に支給を受けられる退職金の額を計算すると、前記退職手当金支給規則の第一条等の規定及び別表1によれば負傷のため業務にたえないと認めるときの勤続年数二四年一〇ケ月の者の退職手当金の支給率は50.883ケ月分であると認められるから、前同様の見地から昭和四三年末の本給月額三万二七五五円を基礎としこれに右の支給率を乗じた一六六万六六七二円であると認められる。(なおホフマン式計算によつてその昭和四一年当時の価額を計算すれば一二三万三三三七円となる。)
ところで、前記退職金支給規則の第六条には「業務上の傷病による労働不能のため退職させるときは別表1による退職手当金のほか見舞金として三〇〇万円を支給する」と規定されているので、同被控訴人は現実には退職するとき右見舞金の支給を受けることができるのであり、右見舞金は右規則に定められたものでもあるから会社が単に恩恵的に支給するものではないと考えられ(同被控訴人の主張によれば右見舞金の支給は労働組合がストライキをかけて会社に約束させたものであるというのであるが、そうとすればなお更恩恵的なものとはいえない。)、そして、見舞金という名称や、勤続年数の如何にかかわらず一律に支給される点からすれば、労働能力喪失による損害の填補たる性質が加味されていることは否定できないが、労働能力喪失による損害填補の目的からすればむしろ逆に将来就労できたはずの年数を標準とするのが合理的であるにもかかわらず一律とした点からすれば、過去の労働に対する報償対価たる性質をも有すると認められ、殊に右退職手当金支給規則中に定められ、退職時に支給される点をも考えれば、右見舞金は前記損害填補の趣旨をも含んだ特別の退職金であると認めるのが相当である。
3、してみると、被控訴人具志堅清が現実に支給を受ける退職金は合計四六六万六六七二円であると認められるのに対し、本件事故に遭遇せず定年まで勤務した場合に得られる退職金として証拠上認め得る金額は二六六万一三四三円にすぎないのであるから、結局同被控訴人は本件事故に基いて得べかりし退職金収入の減少を来たしたことを認めるに十分な証拠は存在しないことに帰着する。
(四)(附添費用)
1、前記(一)の1に認定した事実に、<証拠>を総合すると、被控訴人具志堅清は、前記のように殆んど全身にわたつて骨折等の重傷を受け、入院中は終始附添婦が附添つたほか、被控訴人具志堅常子も被控訴人清の塙本病院入院中は殆んど終始同被控訴人に附添つて看護し、同被控訴人が岡山労災病院に移つた後も昭和四一年一一月末頃までは同年八月頃一時横浜の自宅に帰つたほかはずつと附添い、同被控訴人が岡山労災病院に入院していたその後の期間は一月に一度くらいの割合で自宅と病院との間を往復し、おおよそ半々の期間を自宅と病院とで過ごしてきたこと<証拠判断省略>、右の職業附添婦の附添費はすべて浦賀重工が厚意的にこれを負担して支払つたほか、浦賀重工は被控訴人常子の往復旅費やその他種々の雑費をも負担して支払つたことを認めることができ、そして、前記のとおり被控訴人清は、塙本病院に入院していた当時は当初意識不明の状態にあつたり、痛みが特にはげしかつたり、衰弱のため心臓の機能が停止しかかつたりしたこともあつたのであるから、附添婦の外に妻である被控訴人常子の看護が必要であつたと認められ、また岡山労災病院に移つた後も、手術を行うほかに骨髄炎や床ずれができ化膿したのであるし、<証拠>によると、被控訴人清は身体の衰弱のためなかなか手術ができないというのに食欲がないため、被控訴人常子が一生懸命になつて栄養食を摂らせたり、骨髄炎で発熱し右脚が腫れて痛むため一日中足をさするなどしたこともあることが認められ、そして職業附添婦は患者の看護には馴れていても、患者の気心を知りかつ愛情をもつて看護する肉親の看護に及ばない点もあるのであるから、被控訴人清が負傷して以来被控訴人常子が殆んど終始附添つていた昭和四一年一一月末までの七ケ月間は被控訴人常子の附添も必要であつたと認めるのが相当であり、被控訴人清はこれに基く損害の賠償を求め得るが、その後は前記のとおり現実に被控訴人常子が概ね半分の期間横浜の自宅に帰つていたのであるから、是非とも被控訴人常子の附添が必要であつたとは認め難く、その期間の附添についてはこれを被控訴人清の慰藉料額の算定の上で斟酌するにしても、これによつて本件事故と因果関係を有する財産上の損害が生じたとは認め難い。
そして、被控訴人常子が職業に就いていたことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人常子はもともと家事労働に従事していたものと考えられるのであり、したがつて附添を要したことによる損害は被控訴人常子の家事労働の評価額に等しいものということができ、<証拠>によると昭和四一年の塙本病院での附添婦の日当は九〇〇円であり、岡山労災病院でのそれは一二九〇円であつたと認められること、<証拠>によると昭和四一年の女子の産業別常用労働者の給与月額の総平均は二万四九〇〇円であると認められること、<証拠>によると昭和四一年の被控訴人清の基準内賃金月額は四万〇〇二八円であると認められること等を勘案すると、被控訴人常子の昭和四一年当時の家事労働は月額二万円にあたると評価するのが相当であるから、前記七ケ月の附添による損害額は一四万円と認めるのが相当である。
2、次に被控訴人具志堅清は退院後の附添費用相当の損害賠償を求めるので、この点について検討する。
同被控訴人は、前述のとおり他人の介助によつて背凭によりかかつて起座することができ、また同様他人の介助によつて起立し、独りで掴まり立ちし、歩行器によつて歩行することができるのであり、上半身に障害が残つていることを認める証拠はないのであるから、ベッドの上に食卓を整えるか特殊の椅子を用いれば、食卓について自分で食事をすることができると認められるが、前記のように股関節は右脚は一四〇度まで、左脚は一六五度までしか屈曲することができず、要するにそれだけしか腰が曲げられないのであり、膝関節も右膝は一六〇度で固定し、左膝も一五〇度までしか曲げることができないいのであるから、用便(大便)を達することは洋式便器を用いても他人の介助なしには困難であろうと思われ、差込み式便器を用いても自分では後始末がむつかしい(そのことは同被控訴人本人の供述することでもある。)と考えられる。また着衣もズボン、パンツ類の脱着は他人の介助なしには不可能であろうし、洗顔も不自由であろう。そうしてみると、同被控訴人は終生他人の介助なしには生活をすることができないであろうが、しかし右の程度の介助は被控訴人常子又は他の被控訴人らが家事労働等の合間にすることができると考えられ、被控訴人清の介助に専従する者を必要とするとは到底認め難い。そして、右の家事労働等の合間にする介助を必要とする損害については、前記被控訴人常子の家事労働の評価に用いた資料を勘案して年額一〇万円と認めるのが相当であり、そのような介助を必要する期間は、前記認定の被控訴人清の退院の時期ならびに平均余命からいつて、昭和四六年から昭和七六年まで三一年間と認めるのが相当であるから、右一〇万円に三六年の複式ホフマン係数20.274から五年の同様の係数4.364を差引いた15.910を乗ずると一五九万一〇〇〇円となり、これが同被控訴人の介助により蒙る損害の昭和四一年当時の価額であると認めることができる。
(五) (家屋改造費用)
更に同被控訴人は退院後はその居住家屋を別紙図面のとおり改造する必要があり、その費用として四二一万〇八八四円を要すると主張するのであるが、別紙図面のような家屋の構造は居間、寝室が板張りで広く、殊に便所の広い点等、前記のように身体の不自由な被控訴人清にとつて好都合であると考えられるが、同被控訴人は現在の家屋の状況についてなんらの立証もしないのであるし、今後必要とする生活様式について十分な立証をしないのであるから、恐らくは或る程度の家屋改造の必要があろうとは推察されるものの、果して同被控訴人が主張するとおりの改造を必要とするのかどうか、またそうでないにしても何処をどのように改造する必要があるのかを判断する資料に欠けるのであつて、同被控訴人提出の見積書及び図面<証拠>のみでは必要な改造費用を判定することはできないから、この点に関する損害額についてはその立証がないことに帰着する。
(六) (慰藉料)
これまでに認定した事実によれば、被控訴人具志堅清が著しい精神的、肉体的苦痛を受け、また今後も後遺障害により多大の精神的苦痛を味うであろうことは明白であり、同被控訴人の年齢、職業、家庭内の立場、受傷の程度等上記認定の諸事情に本件に顕われた一切の事情を斟酌し、同被控訴人に対する慰藉料は四〇〇万円をもつて相当と認める。
(七) (弁護士費用)
以上によると被控訴人具志堅清は控訴人に対しこれまでに認定判断した事実に基き合計三三九七万七二九六円の損害賠償請求権を有することとなり、<証拠>によれば、被控訴人具志堅清は控訴会社が本件の損害金を任意に支払わないため本訴を提起したものであり、本訴の提起及びその進行を弁護士内藤功、同加藤雅友、同岡村親宜に委任し、日本弁護士連合会報酬等基準規程による手数料及び謝金を支払うことを本訴提起前に約したことが認められ、本件訴訟の難易、請求認容額その他一切の事情を勘案すると、同被控訴人が右弁護士らに支払うべき弁護士費用中本件事故による損害として控訴会社に賠償を求め得る金額は原審認容の二五〇万円を下らないものと認めるのが相当である。
以上各認定を覆すに足る証拠はない。
六、(被控訴人具志堅常子、同明、同隆、同興信、回ツルの慰藉料)
前記の認定事実によると、被控訴人具志堅清は、再起不能の重傷を受け、終生他人の介助を必要とする廃人同様の身となつたのであるから、その妻である被控訴人常子、長男である同明、次男である同隆、父母である同興信及び同ツルは、被控訴人具志堅清が死亡した場合に比肩し又はそれに著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けたことは推認するに難くなく、これが苦痛を慰藉するには右常子につき一〇〇万円、右明、隆につき各三〇万円、右興信、ツルにつき各二〇万円をもつて相当と認める。
七、(結論)
よつて被控訴人具志堅清の請求は、控訴人に対して合計三六四七万七二九六円の損害金及びこれに対する本件事故発生の月の翌日である昭和四一年四月二九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であり、被控訴人具志堅常子の控訴人に対し一〇〇万円の慰藉料及びこれに対する右と同一の期間、割合による遅延損害金の支払を求める請求はすべて正当であり、また被控訴人具志堅明、被控訴人具志堅隆、被控訴人具志堅興信及び被控訴人具志堅ツルの各請求はこの判決の主文第六項の限度において正当であるが、その余の請求は失当であるから、原判決中控訴人具志堅清に対する三二三三万九七八八円及びこれに対する前記と同一の期間、割合による金員の支払を命じた部分は結局相当であり、また被控訴人具志堅常子の請求を認容した部分は相当であつて、控訴人の被控訴人具志堅清及び被控訴人具志堅常子に対する本件控訴は理由がないものと認めてこれを棄却するが、被控訴人具志堅清の附帯控訴は一部理由があるから、原判決中同被控訴人の請求を棄却した部分はこれを取消して、同被控訴人の請求(当審で拡張した部分をふくむ)中、控訴人に対し四一三万七五〇八円及びこれに対する前記と同一の期間、割合による遅延損害金の支払を求める部分を認容し、その余の請求を棄却し、また、控訴人の被控訴人具志堅明、被控訴人具志堅隆、被控訴人具志堅興信及び被控訴人具志堅ツルに対する本件控訴は一部理由があるから、原判決中被控訴人らに関する部分はこの判決の主文第六、七項のとおり変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第九六条、第八九条、第九二条、第九三条、第九四条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する
(江尻美雄一 今村三郎 後藤静思)
別表一、二および図面省略
別表三
年度
基準内賃金
(月額)
基準内賃金
(年額)
夏季
一時金
年末
一時金
支給された
賃金・保険金
得べかりし
賃金
ホフマン
係数
本件事故当時
の価額
円
円
円
円
円
円
円
229,592
41
40,028
480,336
(81,021)
(88,383)
214,610
36,134
0.952
34,399
42
44,941
539,292
(93,806)
(105,492)
318,426
220,866
0.909
200,767
43
51,032
612,384
(113,309)
(127,636)
331,010
281,374
0.869
244,514
44
59,702
716,424
(162,854)
(180,836)
388,506
327,918
0.833
273,155
45
72,204
866,448
(175,190)
(184,747)
394,848
471,600
0.800
377,280
46
85,517
1,026,204
(198,117)
(233,532)
394,848
631,356
0.769
485,512
47
100,851
1,210,212
(228,124)
(251,724)
394,848
815,364
0.740
603,369
38
110,936
1,331,232
250,937
276,896
1,859,065
0.714
1,327,372
49
122,029
1,464,348
276,029
304,584
2,044,961
0.689
1,408,978
50
134,231
1,610,772
303,630
335,040
2,249,442
0.666
1,498,128
51
147,654
1,771,848
333,993
368,554
2,474,385
0.645
1,595,978
52
162,419
1,949,028
367,391
405,397
2,721,816
0.625
1,701,135
53
178,660
2,143,920
404,128
445,935
2,993,983
0.606
1,814,353
54
196,528
2,358,312
444,541
490,528
3,293,381
0.588
1,936,508
55
216,178
2,594,136
488,994
539,580
3,622,710
0.571
2,068,567
56
237,795
2,853,540
537,892
593,536
3,984,968
0.555
2,211,657
57
261,574
3,138,888
591,680
652,888
4,383,456
0.540
2,367,066
58
287,731
3,452,772
650,847
718,176
4,821,795
0.526
2,536,264
59
316,504
3,798,048
715,932
789,993
5,303,973
0.512
2,715,634
合計
25,400,636